有機大豆作、品種の選択と採種
品種の選択
品種選択の考え方
栽培品種は、有機栽培の場合でも特別な事情がない限り奨励品種から選択する。品種選定に当たっては(独)農研機構や各都道府県の試験研究機関、農業普及指導センターとも相談して検討する。有機栽培に適する品種の検討例は少ないが、地域内の先駆的な有機栽培者の経験や情報も参考にして決定する。その際、経営形態、栽培の容易さ、病害虫抵抗性の有無に加え、流通や実需者ニーズ等を総合的に勘案する必要がある。
また、地域適応性の高いブランドや有機栽培農産物の有利販売や病害虫を回避する栽培時期を狙い、在来種を選択する選択肢もあり得る。
在来種は適地が限定されるので、先駆的な取組事例も参考にする。在来種は地域適応性が高いだけでなく、食味等の面で特徴をもつ品種があり、自家での調理向けや味噌・醤油加工向け、さらには直売所などでも根強い人気がある。しかし、こうした在来種の場合、自家での加工・販売や加工企業との提携による生産物の販売体制の構築が必要である。また、在来種の種子は自家採種で伝承され、種苗店での取扱いも少ないため、種苗交換会での入手や知人からの頒布に依存せざるを得ないなど種子の入手には制約がある。
地域別に見た品種選択の留意点は以下の通りである。
寒冷地
寒冷地は南北に長い上に、積雪のある日本海側と積雪の少ない太平洋側で、気象条件が大きく異なるので、各道県の奨励品種の中から耐病虫性、密植適応性、晩播適応性、早晩性、機械化適応性、耐冷性、水田転換畑適応性などを考慮して選択する。特に気温の低い地域では、早生系の低温抵抗性がある品種を選択する。
寒冷地の大豆作は全体として作付規模が大きく、機械化作業体系が普及しているので、最下着莢節位が高く機械化作業に適した品種が望まれる。また、わい化病の発生が多い地域ではわい化病抵抗性品種を、長期転換圃場や畑大豆ではダイズシストセンチュウ抵抗性を持つ奨励品種を選択する。
北海道の在来種では、「石狩緑」(青大豆) や「白鶴の子」(黄大豆)、「中生光黒(黒大豆) などが、東北地方では「ミヤギシロメ」(黄大豆) のほか、「鞍掛豆」(青大豆) 等が知られている。
中間地
中間地は東北南部、関東、東山、北陸、近畿北部、山陰に及ぶが、経営規模や流通販売先を考慮して、各府県の奨励品種から選択する。その際、近くの有機栽培農家の経験を参考にするとよい。
一般には、「エンレイ」、「タチナガハ」の作付けが多い。日本海側から関東北部では寒冷地の、関東南部や山陰では温暖地の品種なども参考になる。ダイズモザイクウィルスは地域ごとにレースが異なるので、対応したレースに抵抗性を持つ品種の選択が必要である。転作畑でも畑地利用期間が長い場合は、ダイズシストセンチュウ抵抗性を考慮する。集団転作等で作付規模が大きい場合には、機械化作業適応性を考慮する。
中間地の在来品種には、「栃木在来」(栃木県)、「八郷在来ふくめ」(茨城県)、「おがわ青山在来」(埼玉県)、「小糸在来」(千葉県)、「さとういらず」(新潟県)、「津久井在来」(神奈川県)、「ミズクグリ」(滋賀県) 等があるが、地域の広がりが大きく品種特性がかなり異なるので、利用の際は地域性を十分に考慮する必要がある。
温暖地
東海以西の温暖地では、東海の一部や九州を除き概して小規模作付農家が多い。奨励品種に特化しており、東海、九州では「フクユタカ」の作付けが8 割以上である。ただし、近畿圏では奨励品種以外の多様な品種選択が見られ、在来の黒大豆から育成された品種も多い。
ダイズモザイクウィルスが問題となる地域では、発生レースに対応した品種選択が必要であり、畑地や長期転換畑ではダイズシストセンチュウ抵抗性も考慮する。温暖地で問題になるハスモンヨトウについても、近年抵抗性が強い品種(「フクミノリ」、「すずかれん」等) が育成されている。機械化の進んでいる地域では、機械化作業適応性等も考慮する。
温暖地の在来品種には「美里在来」(三重県)、「玉光」(東海)、「中鉄砲」(東海)、「丹波黒」(京都府、兵庫県)、「年貢大豆」(大分県) 等がある。
品種の現状
日本の大豆品種の大半は(独) 農研機構で育成されており、その中でも「フクユタカ」、「エンレイ」、「タチナガハ」、「リュウホウ」などが比較的広範囲で栽培されている。しかし、「フクユタカ」は目色が淡褐色で裂皮しやすいことが、「タチナガハ」は低タンパクや青立ち被害の頻発が、「エンレイ」は台風や低温などの気象災害を受けやすく青立ちが多いなどの問題が指摘されている。そのため、以下のようなことを目標とした新品種の育成が続けられている。
- 安定的な生産を可能とする耐病虫性やストレス耐性の強化
- 用途に応じたさらなる高品質化
- 規模拡大、低コスト化が可能となる機械化適性の付与
道府県でも県単育成品種を含めて、各々の地域に適合した奨励品種を定めており、作物栽培技術指針等で詳しい情報を開示しているので、有機栽培においても、原則として奨励品種を参考に品種を選択する。一般に、北海道や九州など作付規模が大きく、大消費地から遠隔に位置している地域や大規模作付を行っている経営体にあっては、加工企業からの要請もあって、奨励品種を使用している例が多い。しかし、特定需要を開拓したり、加工販売やインターネット等による直接販売、あるいは消費地に近い関東や近畿圏では、差別化をねらった在来種の作付例も多い。
種子更新と自家採種
種子の更新
大豆は閉花受粉で自殖率は99%以上と高く、自家採種の継続も可能である。ただし、産地銘柄出荷等一定品質を維持する必要がある場合は、少なくとも数年に1 回は種子を更新しなくてはならない。
有機栽培で在来種を栽培する場合には、自家採種による種子の確保が必要である。また、産地銘柄にこだわらない場合は、自家採種で種子を確保しても良い。ただし、自家採種はウィルス病等の病害を蔓延させる危険性もあるほか、種子の保存状態が悪いと発芽・苗立ちを損なうので注意が必要である。
自家採種の方法
自家採種の際には、一斉収穫したものの中から種子用の大豆を無作為に選ぶのではなく、まず立毛中にウィルスや葉まき、虫害などのない株の選択から始める。隣接した株であっても虫害を受けていることもあるので、株張り、莢付きの良い健全な株だけを選ぶ。
自家採種の場合も刈取り時期は通常の収穫適期に行うが、一斉収穫に先立ち、選んだ株だけを丁寧に手刈りする。また、刈取り直前に雨に当たらないよう少々早くても降雨前に刈り取り、刈り取った株は雨が当たらない風通しの良い日陰で、吊すか立てかけた状態で乾燥させる。莢が自然に開くようになったら、足踏み脱穀機かゴザの上や桶の中等で軽く叩いて脱粒する。脱粒後は目の粗いフルイ等でゴミや小粒、虫害粒、破砕粒を取り除き、紫斑病等が出ていないものを選んで翌年の種子にする。なお、乾燥が不十分だったり、保管場所の湿度が高いと、カビが生えたり変色するので、子実水分は14%以下に乾燥し、低温の場所で保管する。
有機栽培用種子の入手法
有機栽培を始める際には、有機栽培で生産された種子を求める。有機JASの認定を受けるには、有機栽培で生産した種苗の使用が原則であるが、現在そういう種子を頒布している公的機関はないので、自家採種を行っている有機栽培農家から分けてもらうか、やむをえない場合にはJA等から一般種子を頒布してもらう。また、各都道府県の有機農業研究会などが種苗交換会を開催している場合には、そうした場で相談することを勧めたい。なお、日本有機農業研究会種苗部では、一般的な有機栽培種子の普及を推進する立場から HP (http://www.joaa.net/kakubu/syubyo-syubyo.html) で相談を受け付けている。
大豆は地域ごとに固有の品種が成立してきた経緯があり、品種の地域適応幅が狭いので、在来種を選択する場合には周辺地域から探し、次いで県内へと広げるのが良い。インターネット等で遠い地域の在来種を入手すると茎葉が茂っても結実が著しく劣ったり、登熟前に霜などに遭い登熟不良になることがあるので注意を要する。
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