有機栽培技術の基本と留意点 3

雑草抑制対策

耕種的雑草抑制の重要性

有機栽培では除草剤を用いないので、除草に多くの労力を要する。有機栽培における除草は手取りを含む機械除草と思われがちであるが、機械除草以上に重要な雑草管理が耕種的防除である。
有機栽培での雑草防除の原則は「作物が草に勝ること」であり、実害が発生しなければ雑草が多少生えていても苦にしないことである。特に、大豆は遮光性が強く、栽植密度が適当であれば短期間(寒冷地で播種後40~50 日、中間地同30~35 日、温暖地20 日程度) で圃場を覆うので、雑草との競合には比較的強い。その前提として発芽・苗立ちを揃えることが重要になってくる。

輪作などによる雑草抑制

雑草は大豆の連作など畑状態が続くほど増加するので、地域にもよるが、可能であれば1~2 年周期で田畑輪換を行うことが望ましい。また、畑大豆作地域でも輪作を取り入れ圃場環境を変化させることが発生を減少させることにつながる。
東北農試(野口ら1989) で行った試験事例では、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、ソバ、大豆を年1 作で2 年間作付け、翌年裸地にして発生した雑草個体数(無除草区の数値のみ抽出) を表している。大豆やトウモロコシ跡地に発生する種子繁殖型の雑草個体数は、小麦、馬鈴薯、ソバの跡地に比べて非常に多かった。また、大豆跡地でも全期間を通じて除草を行った跡地では少なくすることができた。
有機栽培では除草剤を用いないため、全期間を通じた徹底した除草は困難であることから、作付体系の中に管理の異なる作物(本試験では小麦、馬鈴薯、ソバ等夏期休閑する作物) を取り入れ、雑草の種子繁殖を抑えることが雑草の抑制に有効な手段になると言える。

耕起、整地作業による雑草抑制

有機大豆作における雑草対策上の重要な時期は、播種後に大豆が地面を覆うまでの期間に、播種前の最終耕起から播種までの期間を加えた期間になる。特に、整地から播種までの期間が長いと、播種前に雑草の発芽が始まり雑草との競合が起こりやすいので、整地と播種の間隔を短かくすることが雑草抑制対策のポイントである。雑草の多い地域では、播種直前間際までに、浅い耕耘によって発生した雑草を根絶やしにしてから、発芽条件の良い日の播種により、斉一な発芽を確保することが重要である。この状態で生育初期に2回程度の中耕を行えば、大豆の茎葉の繁茂によって雑草は生育できなくなる。畝間に日照が届かなければ、雑草が発芽しても生育はできない。
整地作業は、通常通りにロータリーをかけると、深部の雑草種子を掘り起こすことになるので、地表面を浅く起こす程度にする。年1作の体系であれば、耕起後に雑草の発生を待って整地をする余裕もある。
「麦-大豆」の作付体系では、「麦収穫-耕起・整地-大豆播種」の期間が短く、また、省力化の観点からも1工程での作業が求められる。排水性の悪い粘土質圃場での転作大豆を前提に、農研機構北陸研究センターが開発した「耕耘同時畦立て播種栽培技術」 は、大豆300 A技術の中では東北、北陸を中心に普及しはじめている(平成21 年現在全国で6,612ha)。この技術は、耕深約5cm で耕起・整地・播種の1工程作業を可能にしている。ただし本技術は、除草剤を使用した無中耕培土を前提としており、残念ながらそのままでは有機栽培で使うことができない。前述の「有芯部分耕栽培技術」や本技術は苗立ちの安定や雑草防除の観点から、今後は有機栽培への応用的な導入の可能性が高いと考えられる。

狭畦密植栽培による雑草抑制

ダイズ300 A研究によって開発された無培土・狭畦密植栽培は、中耕培土を省き倒伏を防止してコンバイン収穫作業を容易とする省力性と多収性を備えた技術であり、滋賀県と長野県では普及が進みつつある(平成21 年現在全国で3,048ha)。
本技術は畝幅が20~30cm 程度であるため中耕除草が困難であり、除草剤利用が前提であった。しかし、兵庫県姫路市のK 氏は、播種前に地表面の埋土種子の発芽を促して排除する耕耘整地を2回行うことにより、大豆の繁茂力を生かし、雑草が生えても枯れて無くなる原理を活用して、雑草抑制を実現する試行錯誤を重ね、有機栽培でも活用できる技術とした。
K 氏は在来種系統の自家交雑品種を10ha 前後栽培しているが、在来種特有の分枝が多く着莢位置が低い脱粒性のある品種なので、収穫ロスを避けるために密植により茎が高く伸びる性質を生かして、コンバインロスを低下させること、台風による倒伏を密植による集団の力で防止すること、密植による雑草抑制と多収をねらうこと、さらに、小麦の広幅のドリルシーダーを活用する工夫により、従来の常識を覆すことに成功した。水稲、麦類、そば、野菜を加えると延べ作付面積が160ha にもなる中での工夫である。

麦によるリビングマルチを活用した雑草の抑制

(独)農業・食品産業技術総合研究機構の東北農業研究センターと中央農業総合研究センターは、麦類をリビングマルチとして用いて大豆栽培期間中の雑草発生を抑制する技術を開発した。この栽培技術のポイントは、大豆の畝間に大麦や小麦を同時に播種することで、畝間で生育した麦類が雑草の発生を抑制させるが、夏に気温が上がると麦類は自然と枯死するという点にある。

機械的な雑草対策

雑草の直接的な防除法は一般的には中耕・培土作業が挙げられる。通常、培土を伴う中耕は本葉2 ~ 3 枚時と4 ~ 5 枚の頃(1回の場合は3~ 4 枚頃) の1~2回行うが、大豆が圃場を覆うまでの期間が長い北海道や東北では、上記以外にも中耕を行う必要がある。
雑草は草種によって発芽適温が異なり、シロザやタデ類は10℃以下で、イヌビエやエノコログサは10~13℃で、メヒシバやスベリヒユは13~15℃で発芽してくる(渡邊ら2009)。北海道や東北等の寒冷地では、気温の上昇に伴って異なる草種が順次発生することになるので、中耕作業は数回以上必要になる。この中耕は中耕・培土と異なり、土壌深部まで起こす必要はないので、玉カルチ等で土壌表面の数cm をかく程度でも十分な効果を上げることができる。
雑草は発芽して根が十分に張らない間は極めて弱いので、地表面をこまめに攪拌すれば大豆の生育を阻害することはない。問題はその除草の手間がないことである。

開花期以降に発生する雑草の対策

開花期から登熟期にかけては、アメリカセンダングサやイヌビユ、イヌタデ等の庇蔭に強く草丈の高い雑草が発生してくる。これらの雑草は大豆の生育を阻害するだけでなく、種子を形成すると次作以降の雑草の発生が増加する。また、イヌタデやイヌホオズキは、汚染粒の原因にもなるため、可能な限り除去する。なお、この時期は大豆の茎葉が茂っていて機械除草は困難であり、人手で取るほかない。
有機栽培はややもすると粗放管理になりやすいが、有機栽培圃場がこれら雑草の繁殖源にならぬよう、圃場をこまめに見回って早めに発生を感知して引き抜くか鎌で刈る必要がある。
また、近年は暖地を中心に帰化アサガオの発生が拡大しており、収穫時にコンバイン等に絡みつくなど問題になっている。さらに、帰化アサガオは、四国地域から東北地域にかけて1,600ha 以上の大豆畑で発生しているとされ、東海地域で特に多く、大豆栽培面積の26%で確認されている((独)農研機構作物研究所2010)。帰化アサガオは畦際から侵入すると言われているので、圃場の見回りを励行し、見つけたら直ちに刈り取るしかない。

病害虫抑制対策

耕種的抑制の重要性

基本的な考え方

病害虫は主因(病原菌、害虫)、素因(農作物の体質)、誘因(栽培環境) が揃ってはじめて発生する。有機栽培では化学農薬を用いることができないので、病害虫防除は主因を除くのではなく、素因と誘因を改善する方法が中心になる。
このため、有機栽培での病害虫対策は土づくりや栽培管理方法の面から、農作物を病害虫が発生しにくい体質に改善することが重要である。また、病害虫が発生しにくい土壌環境や栽培環境を整えることが重要になる。さらに、病害虫の発生が予想され、その制御が困難な場合に限り、主因に直接影響を与える拮抗微生物由来の生物農薬など有機JAS の制度で許容されている農薬を用いることを検討する。
大豆の有機栽培でも気象条件の変化などによって病害虫が大発生する可能性は否定できず、圃場を常によく観察して病害虫の発生状況を把握するするとともに、適切な対応を早期にとることが重要になる。ただし、有機栽培では有機JAS による許容資材があるとはいえ、高価な上に病害虫の発生を見てから対処しようとしても手遅れになることが多い。そのため、病害虫の発生しにくい圃場環境を整えておくことが原則となる。
なお、有機大豆栽培の実施者の中には、慣行栽培による病虫害の発生状況と無防除との間で、ほとんど差違がなかったという事例や、有機栽培開始4 年目頃から問題のないレベルまで発生が低下したという事例がある。こうしたことに対する研究例は見当たらないが、この背景には、農地生態系を構成する生物群間の共存や競合関係が病原菌や害虫の異常発生を抑えている可能性が高いと言われている(田中2004)。
一般に害虫と天敵しかいない生態系では、通常は天敵の密度が低く、餌となる害虫の個体数が増加した後に遅れて天敵の個体数が増加する。しかし、害虫の個体数が増加した時点で作物被害が発生しているために、仮に天敵がいても被害を回避することが困難である。天敵によって被害を回避するためには、害虫を補食する天敵が常に一定の密度以上いることが望ましいが、そのためには、天敵の餌となる生物群集が常在している必要がある。こうした役割を持つ生物群集は、害虫や天敵のように明確な役割を持っているわけではなく、枯れた植物や有機物を分解して生活している(腐食性) ものや雑食性のものが多い。生態系の発達には、こうした虫(いわゆる“ただの虫”)が不可欠であり、そのためには化学農薬はもちろん、有機JAS 許容資材であっても過度に使用することは望ましくない。
ただし、生態系は個々の生物群集と気圏、地圏、水圏と呼ばれる環境によって構成されているので、どこでも同じように発達するわけではなく、また、そこに生息する生物種の増加には時間が必要である。従って、生態系を発達させ安定させていくためには、大豆作に限らず有機栽培を継続することが必要になる。また、生態系は一圃場内でも発達するが、生物群集の生息場所として考えた場合は圃場周囲の環境が大切であり、より広範囲になるほど安定しやすくなる。
可能であれば、大豆に限らず有機栽培を希望する農家の圃場を集約化したり、水系を同じくするなど、有機栽培に取り組む農地の団地化を図ることが大切である。

病害虫の発生を抑制する耕種管理

病害虫の発生しにくい圃場環境を整えておくことは原則であるが、一般に大豆の主要害虫であるダイズシストセンチュウは大豆の連作年数が長いほど多くなる傾向があることから、可能であれば非宿主作物を取り入れたローテーションや田畑輪換を行うことが望ましい。ダイズシストセンチュウの対抗植物としては、アカクローバーのほかクリムソンクローバーやクロタラリアなどが知られている。また、生態系の発達や地力の維持増進のためには、庇蔭力が強く、作物残渣量の多い麦類や雑穀を組み込んだ輪作体系が考えられる。
大豆の作付圃場の選定に当たっては、日当たりが良く、風通しの良い圃場を選び、排水対策を徹底して圃場が過湿にならないようにする必要がある。降雨時に圃場に滞水しなくても、茎葉の繁茂期には大豆が圃場全体を覆うので、条に沿って適度に換気が行われるように、播種の方向にも配慮する。
圃場周囲の畦や耕作放棄地等はカメムシや蛾類の生息場所になりやすいので、雑草をこまめに刈り取っておく必要がある。ただし、子実肥大期以降は逆に畦草を刈り取らずに残しておくことで、カメムシ類の住処として残し、大豆子実への加害を抑制することも重要である。
病害虫の発生と播種時期の関係が明らかにされている地域もある。このような地域では県の指針に反映されているので、地域の慣行栽培の指針を参考にして適期播種に努める必要がある。

害虫対策

大豆を加害する害虫は温暖地に向かうほど種類が増え、1 月の平均気温区分によって大豆の害虫相の特徴を寒冷地系、中間地系、温暖地系として区分している場合もある。
北海道や東北北部の寒冷地では、わい化病を媒介するジャガイモヒゲナガアブラムシ以外の発生は少ない。かつて主要害虫であったマメシンクイガは発生に周期があり、近年再び増加傾向にあるとされている。温暖地ではホソヘリカメムシ、イチモンジカメムシ、アオクサカメムシ等のカメムシ類、シロイチモンジマダラメイガ、マメノメイガ等のメイガ類、ダイズサヤタマバエ等が主要害虫に挙げられる。また、全国的にはダイズシストセンチュウによる減収が問題とされている。
これ以外にも、本葉展葉期から茎葉繁茂期にわたって発生するハスモンヨトウやマメハンミョウ、コガネムシ等は、茎葉を食害するためLAI (葉面積指数: Leaf Area Index) が低下し、被害が大きい場合は生育の遅延や落莢の原因になるので注意が必要である。
ハスモンヨトウは孵化した若齢幼虫が限られた葉に群生する。その結果その葉は透けて白っぽく見える(白変葉) ので、圃場をよく観察して、この葉を早期に摘葉すれば被害を小さくすることができる。ハスモンヨトウは一旦大発生すると深刻な被害を受けることがある。小面積の場合には手で取る有機栽培者は多いが、周辺の環境との関係で常襲発生地があり、有機JAS 規格で許容されているBT 剤も含め農薬は使いたくないという栽培者の中には、防虫ネットを利用した栽培を行っている例もある。
蝶蛾類に対してはBT 剤や核多角体ウィルス剤等の利用も考えられる。BT 剤はバチルス・チューリンゲンシス(B T) という細胞を利用した殺虫剤で、豆類の場合には1000 倍の希釈液を茎葉に撒布した時に、この菌が産生する殺虫性蛋白質を鱗翅目(チョウ・ガの仲間) が食下した時にアルカリ性の消化液で溶解され、やがて殺虫力を示すタンパク質にまで分解され、この作用で食下後2~3時間で接触活動を停止し被害を抑えることになる。ただし、予防的に散布しなければ効果が低いために資材費が高くつし、発生後の散布では効果が判然としない場合が多いようである。

病害対策

病害では、紫斑病、ウィルス病、モザイク病、わい化病、立枯性病害の被害が多い。わい化病はジャガイモヒゲナガアブラムシで媒介されるが、有機栽培者はあまり問題視していない。わい化病には抵抗性品種が育成されており、多発地帯では抵抗性品種の利用が考えられるが、有機栽培では特別に抵抗性をもつ品種を利用している事例は少ない。
茎疫病(糸状菌) は排水性の悪い圃場で、砕土が不十分な状態で中耕・培土作業を行うと発生しやすいため、畑大豆では発生が少なく、転作大豆で発生が多い。防止対策としては圃場の排水を図ることに加え、風が通り抜けやすい方向に播種するなど圃場の通気性を高めることが必要である。また、中耕作業に伴う下位節の損傷や土塊による口などから感染しやすいので、こうした作業を丁寧に行い、泥をかけないようにするなどの配慮が必要である。

収穫・乾燥・調製

刈取り

ビーンハーベスタの刈取り適期は、落葉して、莢を振るとカラカラ音がするようになる頃である。晴天日の日中を避けて刈り取り、圃場で地干しを行う。ビーンスレッシャー(投げ込み式脱穀機) を使用する場合は、抜き取らずに、必ず刈り取らなくてはならない。地干しのとき、株元を下にして立てることを「島立て」と呼ぶ。乾燥の目安は噛むと歯形がつく(子実水分18%程度) 頃までで、乾燥が不十分だとスレッシャーにかけたときに大豆に汚損が発生する。ビーンスレッシャーでの脱穀では、スレッシャーの回転数を350~400rpm 程度として、乾燥が進んでいるものほど低回転とする。

乾燥・調製

自然乾燥は、子実水分が高い(18%以上) 状態で直射日光に当てるとしわ粒や皮切れ粒が増加するので、通気のよい日陰で陰干しした後に、ゴザなどの上に広げて天日で乾燥させる。ビニールハウスなどの中で乾燥させる場合も同様であるが、閉め切ったハウス内では昼夜の温度差から結露することもあるので、換気に配慮し、時々撹拌して乾燥ムラや過乾燥に注意する。
機械乾燥では、子実水分が高い場合(18%以上) は通風のみとし、それ以下に下がったら本乾燥を行う。本乾燥に際しても低温(外気温+10℃未満) でゆっくり乾燥させる方がしわ粒、皮切れの発生が少なくなる。目安は1 時間で0.5%程度低下する程度である。
乾燥の途中で撹拌したり、一時乾燥を止めるなどして全体の乾燥ムラが出ないようにし、過乾燥や乾燥不足を防ぐようにする。調整水分はいずれの場合も15%である。

選別

乾燥後の大豆は唐箕を用いて夾雑物や茎、莢等を除いた後、傾斜平ベルトを用いて未熟粒や害虫被害粒、割粒を取り除き、フルイによって小粒を選別する。これらを1 台で可能にする選別機も市販されており、さらに近年は色彩選別機によって紫斑粒等の選別も可能になっているが、いずれも個々の農家で導入するには高額であり、作付規模や投資効果を考えて選択する必要がある。

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